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KCPの和訳講座:英文和訳のポイント

第11回 どう訳す?-well controlled

今回は、様々な臨床試験デザインに関する英語について、翻訳の方法を考えてみたいと思います。

まずは、次の英文を訳してみてください。これは「カプラン臨床精神医学テキスト」の原著(*1)にある一文です。

文1: ・・・the benefit has yet to be proved in well-controlled studies.

この記述を邦訳のテキスト(*2)では、「・・・十分に管理された研究によって有効性が証明される必要がある」と記載されています。ここで「研究」は「臨床試験」のことなのですが、この文の意味するところは、臨床試験には「十分に管理された」試験とそうでない試験があって、有効性は「十分に管理された」試験で証明されなければならない、ということを述べていると考えられます。

別の試験での英語表現を見てみましょう。この文にはcontrolled studyという語句が含まれています。

   文2: We conducted a controlled study to evaluate the long-term effects of such therapy on both CD4 counts and the viral burden. (N Engl J Med)

このcontrolled studyについて、weblio英和辞典(http://ejje.weblio.jp/)では「管理下試験」と解説しています。しかし、その一方でplacebo-controlled studyは「プラセボ管理下試験」ではなく、「プラセボ対照試験」とも解説しています。

さらに、ABES技術翻訳スクールの「誤訳劣訳実例集・英和」(*3)では、a controlled studyの誤訳を「統制された試験」とし、正しい訳は「管理化(無作為化)試験」だと解説しています。

果たして以上の様な解説の翻訳は、well-controlled studiesやcontrolled studyの正しい訳なのでしょうか?

たしかに辞書で「controlled」を調べますと、「制御された、規制された、管理された、控えめな・・・」という語句が載っていますので、治験や臨床試験の分野にあまり詳しくない方々はcontrolled studyを「管理された試験」と訳してしまうでしょうし、それらしく見える訳でもあります。しかし、現代の臨床試験、特に治験は殆どの場合が何らかの形で「管理された試験」ですので、あえて「管理された」とするのには疑問があると言えます。

実際、喘息やてんかんの試験等で、治療効果の評価項目として「well-controlled=コントロール良好、poor-controlled=コントロール不良」という表現を使っている場合もありますので、controlledを「制御された、管理された・・・」と訳してはいけないと言う訳ではありません。

辞書には出てきませんが、治験や臨床試験の分野ではこのcontrolledという用語は『対照を置いた』という意味になります。従いまして、a controlled studyは「ある(対照群を置いた)比較試験」となります。では、well controlled studyのwellは何かと言いますと、wellな対照群を置いた=よく吟味された対照群を置いた、という意味なのです。

well controlled studyは日本語でもウエル・コントロールド試験と呼ばれますが、無作為化比較試験(RCT)や二重盲検比較試験(DBT)ではありませんが、よく吟味された対照群を置いた比較試験という事なのです。

たとえば「外国臨床データを受け入れる際に考慮すべき民族的要因について(平成10年8月11日、医薬審第672号)」の通知の用語集の中には「Adequate and Well-Controlled Trial」という用語が出てきて「適切な対照を置き、よく管理された試験」と解説されています。Well-Controlled=適切な対照を置く、であり、よく管理された=Adequateという事が解ります。

ということで、well controlled studyは「適切な対照を置いた比較試験」と訳すのが適切なのです。

参考までに、以下にcontrolled studyに関連した試験デザインを示します。

    ランダム化比較試験(RCT:Randomized Controlled Trial):データの偏り(バイアス)を軽減するため、被験者を無作為(ランダム)に処置群(治験薬群)と比較対照群(治療薬群、プラセボ群など)に割り付けて実施し、評価を行う臨床試験です。無作為化比較試験とも言います。

    二重盲検試験あるいは、二重盲検比較試験(DBT:Double Blind (Controlled) Test、DBS:Double Blind (Controlled) Study):RCTに属するもので、各被験者に割り付けられた治療を、被験者及び治験実施医師だけでなく、治験依頼者、被験者の治療や臨床評価に関係する治験実施医師のスタッフも知られない様にして行う比較試験。特に対照がプラセボの場合を「プラセボ対照二重盲検比較試験(Placebo-controlled double blind study)」と言います。

    非盲検試験あるいは、オープン試験(Open Study、Open Trial):被験者がどの治療群に割付けられたか、医師、被験者、スタッフにわかっている(非盲検)試験法。評価者(医師)が割付けの内容を知ってしまうことで、意識的にあるいは無意識に評価にバイアスが入る可能性、また、被験者が自身への治療内容を知った場合には、試験薬に対する反応が異なる可能性があります。しかし、何らかの理由で盲検化ができなかったり、プラセボが作成できない時に使われます。

以下は疫学研究などで主に使われているデザインです。

   症例対照研究(case-control study)(患者対照研究ともいう。多くは後ろ向き研究[retrospective study]だが前向き[prospective]のこともある):病因仮説の探索や新しい病因仮説の検証、既知の病因論の再検証、既知の病因論の症例への適合性の検討の目的で行います。インフォームドコンセントは必要。稀な疾患の研究では効率が良いので良く行われます。

    コホート内症例対照研究(nested case control study):追跡中のコホート内に発生した患者を症例とし、対照が症例と同じコホートから選択されるが、その選択が症例の発症後に行われる症例対照研究。対照群と症例群の生存時間のバランスがとれるなど、多くの交絡因子(confounding factor)が除去されます。

デハマタ・・・

(*1)Kaplan HI, Sadock BJ, Grebb JA : Synopsis of psychiatry Seventh edition. Williams & Wilkins, Baltimore, 1994
(*2)井上令一,四宮滋子監訳:カプラン臨床精神医学テキスト. 医学書院MYW,東京,1996
(*3)http://www.abes-tt-schl.com/public_img/M_goyaku_ej.pdf

第12回に続く・・・